歯を失った際の3つの治療法と放置による影響

現代の歯科医療において、歯を失った際の代表的な補綴治療法には「ブリッジ」「入れ歯(有床義歯)」「インプラント」の3つがあります。
それぞれにメリット・デメリットがあり、自分に合った方法を選ぶためには、それぞれの治療法の特徴を正しく理解することが大切です。
本記事では、歯の欠損に対する主な治療方法をわかりやすくご紹介します。
歯を失った原因や欠損を放置することで起こる悪影響、各治療法の違いや適応についても解説していますので、次のようなお悩みをお持ちの方におすすめです。
こんな方におすすめ
- 歯を失ったが、どんな治療を選べばいいか迷っている
- 放置するとどうなるのか不安
- 各治療法の特徴や費用を知りたい
歯の喪失原因
厚生労働省の調査によれば、歯を失う原因として最も多いのは歯周病で、全体の約4割を占めます。次いで虫歯(う蝕)が約3割、歯の破折が約2割と続きます。このうち破折の多くは、外傷によるものよりも失活歯(神経を取った歯)の歯根破折によるものが大半です。
また、年齢によって喪失原因には違いが見られます。中高年では歯周病や破折が主な原因となる一方、若年層では埋伏歯(生えきらない歯)や矯正治療に伴う抜歯が多くなります。
欠損状態を放置した場合に起こる問題
歯を失ったまま治療せずに放置すると、口腔内や全身にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
歯の傾斜や挺出による歯列の乱れ
欠損部に向かって隣接歯が傾いたり、対合歯が挺出したりすることで歯列や咬み合わせが乱れます。その結果、咬合のバランスが崩れ、咬頭干渉や咬合性外傷が起こりやすくなります。また、接触点の喪失により、隣接面に虫歯が発生しやすくなります。
残存歯への負担の増加
失われた歯の役割を他の歯が担うことで残っている歯への咬合圧が増大し、咬合性外傷を引き起こします。この負担は、歯周病の進行や歯槽骨の吸収につながるおそれがあります。
欠損範囲の拡大
咬合バランスの崩壊や隣接歯の虫歯進行により、残存歯がさらに喪失することがあります。結果として欠損範囲が広がり、治療の難易度も上がります。
外見への影響
欠損部は口腔内で暗くなりがちで、口元の印象が悪く見えることがあります。さらに欠損歯が多くなると唇や頬が内側に落ち込み、老けた印象を与える「老人性顔貌」を招くこともあります。
咀嚼機能の低下
歯を失うことで咀嚼効率が下がり、食事をしっかり噛めなくなります。その結果、栄養の摂取効率が悪くなったり、胃腸に負担がかかることもあります。
発音への影響(構音障害)
歯の欠損部から空気が漏れることで発音が不明瞭になり、会話に支障をきたすことがあります。
消化器への影響
咀嚼が不十分なまま食物を飲み込むと食塊が大きくなり、消化器官に負担がかかります。加えて、唾液の分泌量や消化酵素の働きが低下するため、消化不良や胃腸トラブルを引き起こす可能性があります。
欠損歯の治療法1:ブリッジ
ブリッジ治療は失われた歯の両隣の歯を支えとして、連結した人工歯(ポンティック)を装着する補綴治療です。支台となる隣接歯に被せ物(クラウン)を取り付け、欠損部を「橋渡し」するように補います。日本語では「冠橋義歯」とも呼ばれています。
治療期間
支台歯の形成と型取りを行い、通常1〜2週間で装着が完了します。多くの場合、通院は2回程度で済みます。
保険診療の場合の治療費
一般的には、金銀パラジウム合金を使用します。欠損部位や支台歯の本数により異なりますが、3割負担で約2万円程度からが目安です。
自費診療の場合の治療費
セラミックや金合金など、審美性や耐久性に優れた素材を使用します。1歯欠損で支台歯2本の最小構成で、30万円程度からが相場です。
メリット
インプラントや入れ歯と比べ、ブリッジには次のようなメリットがあります。
保険が適用可能
保険診療で対応でき、費用を抑えることが可能です。
違和感が少ない
天然歯に近い構造のため、装着時の異物感が少ないです。
咬む力が高い
支台歯に支えられており、比較的強い咬合力を発揮します(天然歯の約6割程度)。
デメリット
インプラントや入れ歯と比べ、ブリッジには次のようなデメリットがあります。
清掃が難しい
ポンティック部分は歯ブラシが届きにくく、プラークが溜まりやすくなります。
支台歯に負担がかかる
咬合力が集中することで、支台歯に負担がかかりやすくなります。
健康な歯を削る必要がある
支台歯に被せ物を装着するため、隣接歯を削る必要があります。
適用範囲に限界がある
欠損歯が多い場合(2歯以上の連続欠損など)は適用が難しいことがあります。
欠損歯の治療法2:入れ歯(有床義歯)
入れ歯(有床義歯)とは、歯の欠損部を補うために、人工歯と土台となる義歯床を組み合わせた補綴治療です。一般的には「義歯」や「入れ歯」と呼ばれ、幅広い世代に利用されています。
入れ歯の種類
入れ歯は、失われた歯の本数によって以下の2種類に分類されます。
- 全部床義歯(総入れ歯):すべての歯を失った場合に使用。粘膜のみで支える「粘膜負担義歯」
- 部分床義歯(部分入れ歯):一部の歯が残っている場合に使用。クラスプ(留め具)により、粘膜と支台歯の両方で咬合力を支える「歯根膜・粘膜負担義歯」
治療期間
治療の一般的な流れは、
- 型取り
- 必要に応じて個人トレーでの精密印象
- 咬合採得
- 試適
- 完成・装着
で行われます。
通常は1〜1ヶ月半程度の通院期間が必要です。
保険診療の場合の治療費
レジン床や熱可塑性樹脂製の入れ歯は保険適用です。自己負担3割の方であれば、5,000円以下から作成可能です。
自費診療の場合の治療費
金属床やノンクラスプデンチャー(バネのない入れ歯)は保険適用外。10万円以上が相場となります。
メリット
インプラントやブリッジと比べ、入れ歯には次のようなメリットがあります。
保険診療が利用できる
レジン床や熱可塑性樹脂の義歯は保険が適用され、低コストで治療可能です。
歯を削る量が少ない
支台歯への処置は最小限で済み、歯への侵襲が抑えられます。
清掃がしやすい
取り外し可能なため、洗浄やケアが簡単に行えます。
デメリット
インプラントやブリッジと比べ、入れ歯には次のようなデメリットがあります。
装着時の違和感が大きい
義歯床が口内を覆うため、食感の違いや異物感が強く感じられることがあります。
咬む力が弱い
粘膜が支える構造上、咬合力は天然歯の10〜20%程度とされています。
食べ物が入りやすい
義歯と粘膜の隙間から食べカスが入り込みやすく、不快感につながることがあります。
見た目に影響が出ることがある
前歯近くにクラスプがかかると、見た目に違和感が出る場合があります。
心理的な抵抗がある
「入れ歯=年配者」というイメージが強く、若い方には抵抗を感じることもあります。
欠損歯の治療法3:インプラント
インプラント治療とは、顎の骨に人工歯根(フィクスチャー)を埋め込み、そこに人工歯(上部構造)を固定することで、歯の機能と見た目の回復を図る先進的な補綴治療法です。
治療期間
インプラントは、埋入した人工歯根が顎骨としっかり結合(オッセオインテグレーション)するまでの期間が必要です。早くても3ヶ月程度、症例によってはそれ以上かかることもあります。
保険診療の場合の治療費
基本的にインプラントは保険適用外です。ただし、腫瘍や外傷による広範囲の骨欠損など、ごく限られた症例で基準を満たす医療機関においてのみ保険診療が認められます。
自費診療の場合の治療費
インプラント1本あたりの治療費は、10〜30万円が目安です。骨量が不足している場合は、骨造成手術が必要になり、その費用が別途かかります。
メリット
入れ歯やブリッジと比べ、インプラントには次のようなメリットがあります。
高い審美性
インプラントの構造は天然歯に近く、セラミックを使った人工歯を装着すれば、自然な見た目に仕上がります。
優れた咬合機能の回復
インプラントは顎骨と結合するため咬む力が非常に高く、天然歯と同等の咀嚼力を回復できます。
隣接歯を削らない
ブリッジや入れ歯とは異なり、隣の健康な歯を削る必要がありません。歯へのダメージが最小限に抑えられます。
長期的な安定性
厚生労働省のデータによると、インプラントの10〜15年後の残存率は90%以上。適切なケアで、20年以上の使用も可能とされています。
「歯科インプラントの問題点と課題等」担当班(インプラント班). 歯科インプラント治療指針 日本歯科医学会編. 平成24年度 厚生労働省歯科保健医療情報集等事業. 2013年3月. https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-02.pdf, (参照 2024-11-12)
歯科インプラント治療の問題点と課題等 作業班. 歯科インプラント治療のための Q&A. 厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」. 2014年3月31日. https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-01.pdf, (参照 2024-11-12)
歯槽骨の吸収を防ぐ
インプラントを埋入することで、歯を失ったことで起こる骨の吸収を抑制し、口腔内の健康を維持できます。
プラークコントロールがしやすい
天然歯に近い形状とプラークのつきにくい上部構造(セラミックや金合金)により、清掃がしやすく衛生的です。
デメリット
入れ歯やブリッジと比べ、インプラントには次のようなデメリットがあります。
外科手術が必要
顎骨へのフィクスチャー埋入は外科的処置が必要で、場合によっては骨造成も加わります。他の治療法と比べて身体的負担は大きくなります。
費用が高額(保険適用外)
原則として保険が適用されず、1本あたり30万円以上と経済的な負担が大きくなります。
全身の健康状態に制限あり
高血圧、糖尿病、心臓疾患などをお持ちの方は、インプラント手術が行えない場合があります。全身疾患の管理が治療の前提になります。
【まとめ】歯を失った際の3つの治療法と放置による影響
歯を失ったとき、どのような治療を選ぶべきか迷われる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、現在主流となっている3つの欠損歯治療法、ブリッジ・入れ歯(有床義歯)・インプラントについて詳しく解説してきました。この記事を通して、次のようなポイントをご理解いただけたかと思います。
この記事で分かった事
歯を失ったままにしておくと、次のような問題が起こる可能性があります。
- かみ合わせのバランスが崩れ、歯列不正が進む
- 咀嚼機能(食べる力)が低下し、消化器系に負担がかかる
- 発音が不明瞭になり、会話に支障が出ることも
- 残った歯に過度な負担がかかり、さらなる歯の喪失につながる
- 時間の経過とともに、欠損範囲が広がるリスクが高まる
こうした影響を避けるために次のような治療があります。
- ブリッジ:両隣の健康な歯を支えとして、橋渡しのように人工歯を固定する方法。ただし、支台歯の削合が必要になる点がデメリットです。
- 入れ歯(有床義歯):取り外し可能な義歯で、保険診療の対象になることから最も安価です。一方で、違和感や咬合力の低下といった使用感の問題が見られます。
- インプラント:人工歯根を顎骨に埋め込むことで、天然歯に近い見た目と機能を取り戻せる治療法です。しかし、外科手術が必要で、費用は高額ですが、長期的に安定した効果が期待できます。
失った歯をそのままにしておくと、見た目や機能だけでなく、残っている歯や骨の健康にも悪影響を及ぼします。
どの治療法を選ぶかは、お口の状態・ご希望・ご予算に応じて異なります。その中でも、審美性・機能性・清掃性のすべてにおいて最も優れているのはインプラントです。
「自分に合った方法はどれだろう?」
「費用や治療期間について、詳しく知りたい」
そんなときは、ぜひお気軽にデンタルクリニックへご相談ください。
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